「母の愛は海よりも深く、山よりも高し」という言葉がありますが、それを引き合いに出すまでもなく、ご両親が子どもにかける愛情というものには、どこのご家庭でも並々ならぬものがあるでしょう。ですから、何か問題やアクシデントが起こったときは、全力で子どもを守っていくはずです。
では、我が子の「親への愛情」をどれだけ理解しているでしょうか。
子どもというのは、親が子を案じるのと同じように、親を案じています。「どんなことがあっても親を泣かせたくない」と、必死に歯を食いしばって頑張っているのです。
このことに関しては、実は、私自身、娘から学んだことでもあります。
娘が小さい頃から仕事が忙しく、私は娘に何ひとつしてあげることができませんでした。
そんな生活を送っていく中で、中学生になった娘との会話の中で、今でも心に刻んでいる娘の言葉があります。
「私はお父さんとお母さんの愛情はしっかりと見ているわ。だから、お母さんやお父さんのことを、絶対泣かせたくない、泣かせることだけはしたくないと思っている」
その言葉を聞いた瞬間、私の目から涙がどっとあふれました。このとき言われた「絶対泣かせたくない」という言葉は、今でもしっかりと私の胸の中に残っています。
何ひとつやってあげることができなかった娘……。広くもない家の中でろくに顔を合わせることもできなかった親なのに……。母として娘のことを心配するあまり、娘の心にまで気が届いてなかったことに気づき、私は深く考えこむ日が続きました。
そして、私はこのことで、親が我が子を案ずるように、子どもというのは親のことを深く案じていることを痛感したのです。これは、私の息子や娘に限らず、どんな子どもでも親に対して強い愛情を持っているのです。
親に喜んでもらえればただそれだけでうれしく、逆に、親から見放された、呆れられたと感じたときは寂しくなるというのも、愛情があるがゆえのことです。
しかし、親のほうは、子どものそんな気持ちになかなか気づかぬままに、いい子に育ってほしいという親心、子を案ずる愛情から、叱ったり、わめいたり、時には躾という名目で手を上げることもあるでしょう。
子どもに幸せになってほしいと思うあまり、一生懸命になりすぎて冷静な判断ができなくなってしまうこともあるかもしれません。
ただ、その結果、子どもが中高生になり、親の言うことをまったく聞かなくなり、また人を怖れない人間になってしまったら、親としてこれほど無念なことはありません。
親が子どもを愛しているのは言わなくてもわかってくれているはずと思っているのかもしれませんが、やはりそこは言葉で表現してあげてほしいと思います。
たとえば、
「あたながいるからお父さんとお母さんは頑張れるのよ」
「あなたの笑顔を見ると、どんなに苦しいことがあってもお父さんもお母さんもやる気が湧くのよ」
そういった言葉で、親が持っている本音の愛を伝えてあげてください。
子どもから、
「私、お父さんとお母さんの子どもでよかった!」
と言われたなら、天にも昇るようなうれしい気持ちになるでしょうし、ずっとその言葉を忘れずにいるでしょう。また、ご主人(または妻)から「結婚してよかったよ」と言われたら、恥ずかしいけれども喜びで心がほんわか温かくなるはずです。
それは、子どもも同じなのです。中学生になっても大学生になっても、親からの優しい言葉を子どもは聞きたいのです。私のところに相談にみえる若い方々を見ていても、そのことは日々、痛感させられております。
ただ、日本人はそもそも感情を伝えるのは不得手です。私が最初に「愛を伝える」ことの大切さに気づいたのは、アメリカ映画からでした。
それは、今からおよそ数十年前に遡ります。タイトルは忘れてしまいましたが、家でアメリカのホームドラマを観ていました。そのドラマのワンシーンが、今でもしっかりと目に焼きついています。
父親が8歳くらいの女の子を抱きかかえて、優しくほおずりしながら、
「パパはお前のことを愛しているよ」
と言ったのです。
そのシーンを観たとき、私は大きな衝撃を受けました。毎日、顔を合わせる親子が、「愛しているよ」と自分の気持ちを我が子に伝えるとは、なんとすばらしいんだろう! と心が震えました。そしてまた、親は子どもに愛していると伝えることは大切なことなのだと実感しました。
日本人は、子どもに対しても、また夫や妻に対しても、愛を表現する言葉を伝えるということは、照れもあって苦手なのかもしれません。
しかし、心と心をつなぐ家族の絆を深めるためには、愛情を正しく伝えるということはとても大切なことです。
最初は照れ臭いかもしれませんが、子どもに「あなたが私の子どもでよかったわ」と、素直に本音を言ってあげてはいかがでしょうか。
愛の言葉が飛び交う家庭は、家族全員が幸せを感じられるはずです。
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