たとえどんなに医療が発達したとはいえ、ガンの宣告を実際に受ければ、普段は冷静な人でも気が動転してしまうでしょう。
また、体の具合が悪くて日々の生活にも支障をきたしているのに、病院に行っても原因がわからない、病名がつかないから治療法もわからない、という状況になれば、不安になるのも当然だと思います。
しかし、だからといって、それを「霊障」、しかも、先祖の祟りと結びつけるのはいかがなものかと思います。ただし、そもそも、多くの方が「霊障」を疑う源には、それなりの理由があり、そこに根の深い問題が隠されている、と私は考えています。
そして、長年、多くの相談者の方と向き合ってきた私には、病気を霊の障りと考えてしまう問題の根本には、その家の中でひそやかに語り継がれてきた伝達事やジンクスといったようなものが大きく関与しているのではないか、また、そういったジンクスが、ほかの面でも正しい判断を狂わせる原因になっているのではないか、と思えるのです。
そういったジンクスが、では、いったい、どのように伝わってきたのかというと、たとえば、こんな感じです。家族の誰かが何日も腹痛で苦しんでいるようなときに、その家の家長ともいえるおばあさんが、
「武士だった先祖が刀で刺し殺した相手からの恨みからきていることがあるから、お祓いをしてもらわないとなかなか治らないんだよ」
と言ったり、商売が傾いてきたりすると、
「成仏できないでいる祖先の霊の障りを疑ったほうがいいんだよ」
などと、ことあるごとに家族に話して聞かせたり、あるいはまた、親戚の誰かがガンで亡くなったりしたときに、
「あのおじさんは間違いを犯したから、先祖に命を持っていかれたんだ」
などといったことを、まことしやかに語ったりすることで、子どもがそれを信じ、世間の目が届かない、家族の間でじわじわと伝達されてきたのです。
このように、親から子へ、子から孫へと口から口へと伝承されてきた正しくない伝達事は、みなさんが思う以上に数が多く、まだまだ根が深いようです。
たとえば、漬物の漬け方ひとつにも、その家ならではの漬け方というものがあるように。また、正月のお雑煮の味付け、煮物のだしの取り方、カレーの作り方に、その家なりの味付けややり方があるように。神仏や霊能に関しても、その家ならではの言い伝えや考え方というものがあり、それを信じて疑わないといったことが多いのです。
それらは、外からは見えない家という名のボックスの中で長年執り行われてきたために、ほかの家のやり方、考え方と比べることができないことが、大きな特色といえるのではないでしょうか。
ゆえに、その家に代々伝わるジンクスを子どもの頃から聞いて育つと、それが当たり前の常識や真実なのだと信じて疑わず、心の奥底に深く染みつき、まるで揺るぎのない信念のようになってしまう場合が多いと思います。
さらに、そういった家の方が、霊能者、あるいは、拝み屋と称される人のところに行って、家族の病気の原因を尋ねたときに、
「それは霊の障りです。先祖霊の祟りだから除霊しなくては治りません」
などと言われたりすることが、ますます、その信念を強くしてしまい、霊に関するジンクスを強固なものにしているのではないでしょうか。こういったことはとても嘆かわしいことだと、私は常々感じております。
つまり、そのようにして、家の中で長い年月をかけてひそやかに語り継がれてきたことは、いつの間にか、まるで世の中の常識のようなものとして、心に刻まれてしまうのです。
透視能力がないにもかかわらず、「あなたは業が深いから、こんな目にあう」とか、「病気は先祖のせいだ」などという言い方をされることが多いようです。
霊の障りだというからには、言った人には除霊をする責任があるわけですが、除霊力はなかなか授からないと聞きます。除霊力もないのに、むやみやたらと「霊障」という言葉を使うべきではないと思います。
どうすればよくなるのかといったアドバイスを与えることもなく、ただ「霊障」という言葉を使うだけでは、相談に行った方も、苦しみから抜け出せるどころか、かえって不安を大きくしてしまい、除霊をしてくれるところを無駄に探し歩くことになってしまうのです。
私は、これは実に大きな問題だと考えます。ここではっきりと、みなさんにお伝えしておきたいのですが、私たちがきちんと生きていたならば、何の理由もなしに「霊障」にあうことなどないのです。
ましてや、自分にまったく関係のない霊に障られることはまずありません。
とはいっても、「霊障」というものがまったくないわけではありません。ただ、命までをも持っていく、というようなことはめったにありません。
実際のところ、ご先祖の霊障で多いのは、子孫になんらかの注意を促すものです。たとえば、こんな例があります。
相談にいらっしゃったのは、六十歳代の男性。ご親類の方数人に肩を抱かれるような格好で、心底、困り果てた顔でお見えになりました。
相談内容を聞くと、
「妻が突然、具合を悪くして、家で寝込んでいます。病院に行っても、お医者さんはどこも異状がないといいます。でも、どんどん具合が悪くなり、今ではもう、布団からも起き上がれない状態なのです」
と、おっしゃいます。
さっそく拝殿に向かって手を合わせますと、神は瞬時に、根本にある原因の状況を私に見せ、こう教えてくれました。
「墓の中に水が入ってしまい、お骨が水に浮いて大変なことになっている。それを何とかしてほしい、と先祖が伝えている」
そこで、すぐに家に電話をしてもらい、家に残っている家族の方に調べてもらいました。すると、神が見せてくれたように、お墓の中に水が流れ込んでいたということがわかりました。
こういう場合は、除霊をするまでもなく、ご先祖の頼みを聞いてあげることでピタリと収まり、体のほうも何事もなかったかのようにすぐに元どおりになります。
ご先祖が何か伝えたいことがあるような場合は、このように、家族の誰かの具合が悪くなったりします。体が急にだるくなって動けなくなる、といった症状になることが多いようです。
そう聞くと、「やっぱり霊障は恐ろしい」と思われるかもしれませんが、実のところ、これは厳密な計算があってのことなのです。
というのも、霊の世界から見れば、この世のことなど簡単にわかりますから、家族の誰かに障りがあったとしたら、その後、周りの家族はどうするのか、さらにその後どうなっていくのか、ということが、あらかじめわかるのです。
要するに、解決に至るルート、道筋がわかったうえで霊障を起こし、自分の願いを確実に果たそうとするわけです。
そして、このような場合、先祖の霊は必ず恩返しをしてくれます。障った本人にとは限らないのですが、たとえば、大事な息子が交通事故にあったときに軽傷で済むように取り計らってくれるなど、一族の誰かを救うという形で恩を返してくれるのです。
神の世界も仏の世界も、いってみれば、人間界と同じように法律に似たようなものも秩序もあります。ですから、むやみやたらと霊障を起こしたりするようなことはないのです。
ただ、ほんのわずかですが例外があります。それは、神仏の世界の法にのっとってみても目に余るような、あくどいことをした場合です。
たとえば、舅の介護をしているお嫁さんが、表面上はいい嫁のふりをしながら、実際はおじいちゃんにろくに水も与えず、さらにひどいことに、食事に変なものや汚物を混ぜて出すなどしていたとしましょう。
そんな介護を受けているにもかかわらず、当の舅は体の自由がきかず、また、ろれつも回らない状態で、誰かに苦痛を訴えることも叶わず、それこそ血の涙を流さんばかりに、はらわたが煮えくり返るほどの悔しい気持ちを抱えたまま死んでいったとします。
そのような場合、その舅が亡くなって霊となってから、霊障を起こすことがあるのです。
そんなケースでは、そのお嫁さん自身の命を取るというよりも、そのお嫁さんから大事なものを奪う、という形をとることが多いのです。
私が知るところでは、たとえば、大事な夫が火事で焼死するとか、最愛の息子が事故死するという形で命を奪う、ということがありました。
また、先ほどもいったように、自分とはまったく関係のない霊に障られる、というようなことは数少ないことです。むやみやたらと疑いを持ち、自己判断してしまうのはよくないことですが、ちょっとした気のゆるみから、よくない影響を受けることはあります。
たとえば墓地で、不成仏霊が助けを求めてさまよっていたりした場合、ふっと体が重くなるような感じがしたり、気分が悪くなるようなことがあったとしたら、それは、不成仏霊が寄ってきている可能性があります。
また、先にあげた場所以外でも、たとえば、交通事故の現場、自殺があった場所などを通りかかったときに、不成仏霊が近づくこともありえます。
とはいっても、こういうことは誰にでも起こるものではありません。端的にいうなら、霊感の強い人に起こりやすいのですが、それはまるで、お金がなくて困っている人がお金持ちを頼るのと同じです。霊的な力があると思われ、救いを求めて寄ってくるのです。
ですから、たとえ霊感が強くても、感じるだけで霊を祓う力がないのなら、間違っても同情してはいけません。軽い気持ちで霊感体質だと自負していると、霊障を受けるなど、それこそ手痛い目にあうこともありますので、くれぐれも注意してください。
もうひとつ、つけ加えるなら、もしも、そういう場所で体が重くなったりしたときは、凛とした態度で「南無阿弥陀仏」と唱えることをおすすめします。あるいは、般若心経のお経を唱えるのでもいいでしょう。
そのような対処をすると、不成仏霊はすっと離れていってくれます。
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