夫婦として長年、一緒に生活していると、遠慮がなくなったり、恥じらいがなくなったり、あるいは、今まで我慢してきたことが我慢できなくなってくることが少なからずあります。
長い年月の中で育まれた馴れ合いの関係によって歯止めを忘れ、マンネリ化する中、たとえ本心ではないにしろ、ついつい言ってはいけない雑言まで飛び出し、それが夫婦仲のヒビ割れの原因になることも拝殿では見られます。
そういう中でもお互いに労り合って、いい意味での友達夫婦となって、一緒に趣味を楽しんだり、旅に出たりして仲良く暮らしている熟年夫婦もいます。
その一方、仕事で疲れて帰ってきたご主人に「ご苦労様」のひと言も言わず、また、ご主人のほうも、妻の手料理に対して「おいしいね」の言葉も言わなくなるなど会話もなくなり、お互いに相手に感謝することを忘れるだけでなく、年々、お互いの欠点ばかりに目がいくようになるといったご夫婦もいます。
夫婦関係のマンネリの中で、「夫婦だからいいじゃない」という甘え心で相手への気遣いをなくしてしまうと、時が経つにつれて相手のことがうっとうしくなり、気がつけば会話もなく、口を開けばお互いの悪口ばかり。
何かと言い合ったり、罵り合うようなご夫婦になってしまっている場合も、私は数多く見てきています。
熟年と言える年齢になってから夫婦の間がギクシャクしてきた場合は、馴れの幸せに気づかずに、ひとりよがりの間違った判断で相手のことを誤解していることも多いものです。
たとえば、
“聞いているようでいて、相手の話をいつも上の空で聞いている”
“お互い頑固で、言い出すとどちらも引くに引けなくなってケンカになる”
“相手から注意されると、とにかくカチンときて、『私は正しい! 間違ってない!』とつい反論してしまう”
“ケンカしているときは、口にこそ出さないけれども、わざと意識して小馬鹿にする態度で無視したり、邪険な態度をとってしまうことがある”
“お互いにいい関係になりたいけれど、主人は頑固だからどうせ言っても無駄だと思って、夫婦の今後についてきちんと話し合ったことはない”
といった、驚くべき言葉を拝殿では聞きます。
何より大切な “行き着く人生の目的は同じなのに、勝つためのケンカに力を入れ、肝心なふたりの目的を忘れている” ことに気づけないご夫婦にも、拝殿ではよく出会います。
いずれにしても、人生という長い旅のパートナーとして、ひとつの家で暮らしていくわけですから、愛の冷めた形だけの夫婦になってしまってはお互いに不幸ですし、子どもたちにとっても悩みのタネになってしまう場合もあるわけです。
ですから、熟年世代に入る前から、共に幸せになるというお互いの目的が同じであることを十分に考慮して、夫婦の絆をしっかり結び直していただきたいのです。
ご夫婦の絆を結び直すのに、遅すぎるということはありません。たとえ60歳になっても、70歳、80歳になっても手遅れということはないのです。
そのためには、“欠点だけを見ずに、相手の長所もちゃんと見る” ことです。そして、当たり前のことですが、何かをしてもらったら「ありがとう」、悪いと思ったときは「ごめんね」ときちんと言葉に出して言うことです。
また、ほめられることを求めるばかりではなく、「その新しいシャツ似合うわね」などと、ご主人に対してほめ言葉をかけるのも大切だと思います。奥さんのほうからこのように日々、気をつけていくと、ご主人のほうも必ず変わっていきます。
そして、“和合すること” “協力すること” “感謝すること” “尊重し合うこと” を大切にしていってください。
私がこのように言えるのは、繰り返される相談の中、神様との会話から私自身も学ぶことができるためだと思います。
また、やがて伴侶に先立たれたときに、「主人(または妻)をもっと大事にすればよかった」「もっと素直に優しくすればよかった」と悔恨の涙を流しながら、この拝殿で泣き崩れる人をこれまでにたくさん目にしているからです。
お互い元気なときは、いるのが当たり前。一緒に暮らす相手がいる幸せに気づかないものです。私が作ったこんな詩があります。
『旅立ちて 初めて悔いを知り得たり 主なき部屋 むなしきかな』
伴侶が亡くなったあと、いるべき人がそこにいないがらんとした部屋の中で、大事なものを失ってしまったことに気がついても、そこには淋しさだけしか残っていないのです。
こうした悲しさの意味を十分理解して、亡き伴侶へ“感謝” する。
それが、いちばんの供養となるのです。お供物よりも大切なのが “気づいたがための感謝” です。
拝殿では、亡くなられた方の気持ちを神様から教えていただくことがありますが、そんなときは、亡くなった方が感謝の言葉にどれほど喜ぶかも十分に伺っています。
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