2011年の東日本大震災以降、ご相談内容に少し変化があります。それは、40代後半や50代の独身の人たちが、「このまま一生、ひとりでは淋しい」というお悩みを訴えるようになったことです。
男女ともに、「たとえ子どもはもう作れなくても、一緒に生きる人が欲しいんです」という思いを告げる人がとても増えてきました。
私は結婚はいくつでしてもいいと思っています。本心から結婚したいと望むのであれば、そのときを婚期ととらえ、伴侶を求めるのもすてきなことだと思っています。
年齢のことを気にする人が非常に多いのですが、私は、60代、70代、80代の人に対しても、おおいに恋愛も結婚もして欲しいと思っています。
それまでずっと独身でいた人、離婚してシングルの生活を続けてきた人はもちろんですが、私は、伴侶に先立たれてひとりになった人の再婚にも大賛成です。
60代、70代になってご主人に先立たれると、突然ひとり暮らしになります。40代や50代など、若くしてご主人を亡くされた場合は、子どもとまだ同居しているでしょうが、やがて子どもが巣立っていけばひとりになります。
もちろん、仲のいい女友達と食事に行ったり観劇やショッピングに行くなど、いつも寂しいというわけではないでしょう。しかし、友達と夫婦では、また違うものがあります。
ある程度の年齢になってからの結婚や再婚は、お互いに人生の試練をいくつも乗り越えてきていますので、互いを自然に労り合える落ち着きのある友達夫婦になれることが多いようです。
もちろん、中には「ひとりが気楽でいい」とおっしゃる女性もいますし、それはそれでなんら問題のないことだと思います。
その一方、再婚を子どもに反対されるケースもあります。もういい年なのに恥ずかしいからやめて欲しい、というような気持ちが子どもにはあるのかもしれません。または、自分の年老いた母親が突然、知らない男性と一緒になるということに、生理的嫌悪感を持ってしまう場合もあるのかもしれません。
そのように、結婚できない事情を抱えている方もいますが、そういう場合は、入籍しない事実婚や、恋愛のままでもいいのではないかと思います。そのようにして、日々、希望を持って過ごしている方にも、拝殿でよく出会うことがあります。
ご相談に見えた方に、「結婚という形をとらなくても、仲の良い友達のままおつき合いを続けていったらどうですか」とお伝えすると、「ああ、そういう方法もあるんですね」と驚かれることがあります。
40歳を過ぎた人を見ていると、おつき合いを続けたら結婚しなくてはならない、という観念に縛られている人が実に多いのですが、40歳を過ぎたからこそ、慎重におつき合いをされて、お互いが望むときこそ “結婚” を考えられたらいいと思います。
中年期以降の恋愛は、刺激や一時のときめきを求める若い頃の恋愛とは少し違います。優しく寄り添い合うだけ、一緒に過ごすだけで未来に希望が持てるような恋愛をすることができると思います。
入籍するか、入籍しないで同居する事実婚にするか、別居婚にするか、通い婚にするか、週末婚、あるいは、恋愛のままおつき合いを続けるか。それは、ふたりの事情に合わせて選べばいいわけです。
ですから、これからずっとひとりなんだわ……などと諦めたり萎縮せず、熟年世代、老年世代だからこそ可能な恋愛、結婚に目を向けてみてはいかかでしょうか。
また、伴侶を亡くされたのちにパートナーを得た方には、このような方もおります。
ともに70代の仲のいいご夫婦でしたが、奥さんのほうがガンにかかり、気づいたときにはすでに末期、もはや手術はできないという状態だったそうです。
奥さんのほうは、自分の命がもうすぐ尽きることを悟ったかのように、取り乱すこともなく過ごしていたそうですが、自分がこの世を去ることを考えたときに、まっ先に頭に浮かんだのは、残されるご主人のことです。
「あの人はひとりではやっていけないんじゃないか。私がいなくなったら、あの人はどうなってしまうのかしら……」
そのように気をもんでいたある日、ご近所で夫婦ともども仲良くしているひとり暮らしの50代の独身の女性の顔が脳裏に浮かんだそうです。その女性は、奥さんがガンになって自宅で寝込むようになってからは、看病をしにたびたび家を訪ねてくれるような近しい間柄だったそうです。
「そうだ。あの人に、主人のことを頼んでみよう」
ご主人にも自分の考えを伝えたあと、その女性が家に来たときに、
「私が亡くなったら、主人の面倒を見てくれたらうれしいんだけど。考えてみてくれないかしら。子どもが3人いるから籍を入れるのは難しいと思う。でも、あの人は優しい人だから、あなたのことはちゃんと考えてくれると思うの。だから、もしよかったら、一緒に食事をしたり旅行に行くような間柄になってくれないかしら」
と頼んだそうです。すると、その女性は意外な話にためらいつつも、控えめながら承諾してくれたそうです。
その後、間もなく奥さんは息を引き取ったそうですが、お葬式が終わったあと、旅立った奥さんが案じたとおり、ご主人はすっかり打ちひしがれていたそうです。その後も、子どものことを気にして、その女性との交際にもなかなか踏み切れなかったようです。
そんな日々の中、やがて奥さんが生前語っていたことを思い出し、その女性と会うようになったそうです。とは言え、一緒に外食したり旅行に行くといったおつき合いです。同居はせず、入籍もせず、ご主人が女性の家に行くこともありません。
ご主人は資産家でしたが、女性のほうも贅沢を望むわけでもなく、自分が死んだあとは実家のお墓に入るからと、入籍を迫るようなこともありません。そのように分をわきまえながら、お互いが希望を持っておつき合いする中、ご主人はひとつの生きがいを見つけたように笑顔まで見せられるようになりました。
ご主人も女性に貢ぎすぎるようなこともなく、また、お孫さんが大学に入学すればお祝いとして入学金を渡すなど、そのあたりの分別もきちっとしており、子どもに対しても、けじめや義理をしっかりと考え行動していたのです。
そんなある日、そのご主人の息子さんが、私のところの相談に見えました。お嫁さんから、なんとかおじいちゃんと女性を別れさせられないか、その方法を聞いてきて欲しいと頼まれて来たそうです。私はその息子さんに、
「あなたのお父さんはしっかりとした判断力を持っている方です。あなた方3人の子どもにもちゃんとお金を残しているはずです。女性に貢ぐような心配はありません」
と言うと、息子さんはほっとした表情を浮かべて、
「そのほうが父も幸せなんですね。よく分かりました」
と、安心した様子で帰っていきました。
後日談としてその女性から聞いた話ですが、亡くなった奥さんは、子どもたちから反対された場合のことを考えて、子ども宛ての手紙をその女性に残していたそうです。
手渡された手紙と共に亡くなった奥さんの生前の筆跡を見せてもらうと、それは確かに奥さんの筆跡。その手紙には、
「私が亡くなったあと、お父さんには◯◯さんとおつき合いしてもらいます。これは、私がふたりにお願いしたものです。私の最後のお願いだと思って、ふたりのことを温かく見守ってあげてください。お願いします」
といった内容が書いてありました。
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