日々さまざまな相談に応じていると、多くの人は自分の抱えている問題の根本的な原因、すなわち自分の心の不足に気づいていないことがあまりにも多いことがわかります。「心の不足」という言葉の意味さえ理解できずにいる場合も多く、また、考えようともしないのです。
気づきとは、過去・現在・未来のつながりの中で物事を考え、理解することでもありますが、それができないがゆえに、不幸やトラブルの原因さえ把握できないで苦しんでいるのです。
自分の非、つまり欠点さえも深く考えられない場合、なかなか解決ができず、堂々巡りの苦しみが起きるのです。
古いことでよいこともたくさんありますが、古い知識のみが先立って時代遅れになってしまっている「自分の心」に気づけないでいるのです。それでは、まるで、昔の侍の時代のままの意識で、現代のパソコンをはじめて目前にするようなものです。
幅広い知識を得て豊かな人間関係を築くことよりも、「いい大学さえ出れば……」「出世をすれば、幸せになれる……」という考えもその一つです。
とりわけ、大正時代に生まれ育った世代の大半は、お金がないために高校や大学に行けなかったので、せめて子ども達には学問をさせて、お金に不自由させない生活ができることを強く望んだことでしょう。
その子ども達、それは主に戦後生まれの「団塊の世代」に当たります。
その頃は、兄弟姉妹の数も多く、高校に進学できる家庭は少なく、中学を卒業したら就職するのが当然という時代。親にとっても子どもに早く働いてもらって、貧しい家計を助けてもらいたいという事情もありました。
しかし、都会とは違って、地方の農村や漁村などには団塊の世代を受け入れるだけの就職先はありません。
そのため、中学校を卒業した地方の若者たちは集団就職で都会に出て、町工場などの中小零細企業で雇われて一所懸命に働きました。
彼らは「金の卵」と呼ばれ、毎日額に汗し、苦労をしながら日本の高度経済成長を支えてきたのです。
見知らぬ都会で、方言が抜けずにからかわれたりしながら、歯を食いしばって生きてきた人生の中で、結婚して親になり、自分が持てなかった学歴を我が子に与えたいと思う親心は当然のことでしょう。
そして、この頃から経済の高度成長とともに、共働きや鍵っ子が増えていきました。
街も一変し、戦後の焼け野原から道路や公共施設が整備され、あちこちに商店街やビル、共同住宅が立ち並ぶなど、社会も大きく変化していきました。
その頃、大きく変わったことの一つとして、とても私の印象に残っているのが女性のお化粧です。
私が学生時代の頃は、まだ化粧品も少なく、化粧の仕方を知らない女性が多かったために顔にシミが目立つご婦人が多く、それを見て、「何でこんなに顔が黒ずんでいるのだろう?」と不思議に思っていました。
ところが、ある時期から女性が化粧をするのが当たり前になり、美白や美肌の方法が広まって、見る見るうちに女性の顔からシミが消えていったのです。
これも知識の変化です。役に立つ知識が増えたことで、生活文化が進歩したのです。
また、医療にしても、私たちが幼かった頃に比べると大いに進歩しています。
一昔前までは治らないとされていたさまざまな病気が治せるようになり、がんにしても医療の目覚ましい発展ににより、早期発見、早期治療で治る可能性が高まっています。
そのように私達の生活が著しい変化を遂げていく一方で、いつの間にか置き去りにされてきたものがあります。
それが「心の知識」です。
夢中で働き続けた親が、学歴さえあればと我が子の幸せを願ったはずが、親自体が心の知識の大切さに気づかず、成長していく子どもとのバランスをとることができずに親の考えを押しつけすぎるために、大切に、大切に我が身を削るがごとくに育てたつもりの我が子の反発、非行、自殺……。
学校の義務教育も昔より高度になっているのさえ気づけない親が、多感な思春期の我が子の心の不足や歪みに気づけず、「親きどり」の言葉だけを繰り返しているだけでは、さらに問題が大きくなります。
思春期は、ホルモンバランスが変化し、身体も精神も子どもから大人へと切り替わる時期ですが、「思春期になると親に反抗的な態度をとるのは当たり前」という考えは間違っていると思います。
「思春期の反発」がいつまでも口答えをする子どもになってしまうこともあるのです。それは、幼児のときから「駄目!」「やめなさい!」だったから。それではいけないのです。一つひとつ年齢に応じて教えていかなければならないのです。
親は人生経験においての大先輩です。
まさに人生の大先輩として、これから未知のこと、未経験のことに興味を抱き、向かっていく我が子に、経験を通じての正しい知識を教えなければならないのです。
親が正しい知識を得ていないと子どもも正しい知識を得られず、親子ともに悲しむ結果になることも少なくないのです。
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